大牧 冨士夫(おおまき ふじお)1928年5月10日徳山村漆原に生まれ、漆原に育つ
漆原(しつわら)は幕末以前からの村の名。明治になって同じく揖斐川右岸の池田と合わせて大字開田とされ、漆原は通称下開田、池田は通称上開田と呼ばれた。大牧さんはこの押しつけられたような行政地名ではなく、村人に慣れ親しまれた漆原(しつわら)を使っていた。
徳山ダム建設計画のため1985年に徳山村漆原から北方町芝原中町へ転居。1987年に徳山村は廃村となり藤橋村に編入され、やがて広域合併により揖斐川町へ。その後、徳山ダムの湛水によって、旧徳山村の8つの集落跡は門入を除いてすべて水没した
大牧さんは戦争末期を新潟県村松の陸軍少年通信兵学校に過ごし、戦後は岐阜大学卒業後、東海繊維経済新聞の記者を経て徳山村立徳山小学校、徳山村立徳山中学校に勤務。『徳山村史』の編集に参加。転居後は北方町立北方中学校に勤務。新日本文学会、幻野の会などの文学運動に参加
編著に『郷土資料-揖斐郡徳山村方言』、著書に『たれか故郷を思わざる』『徳山ダム離村記』『大正三年「前川民右衛門日記」-美濃徳山村漆原』『異郷の同時代風景』『中野鈴子-付遺稿・私の日暮れ、他』『僕の家には、ムササビが棲んでいた-徳山村の記録』『あのころ、ぼくは革命を信じていた-敗戦と高度経済成長のあいだ』『ぼくは村の先生だった-村が徳山ダムに沈むまで』『中野鈴子 付遺稿・私の日暮し、他』、他。句集に『庭の朝-大牧冨士夫句集-』。共著に『三頭立ての馬車』、『徳山村-その自然と歴史と文化-1』『徳山村-その自然と歴史と文化-2』がある
2021年1月15日新型コロナウイルス感染による誤嚥性肺炎のため死去
生前の大牧さんが力を込めて書きつづった同人誌『遊民』。そこに掲載した原稿を1冊にまとめたいと依頼をいただいたのは、大牧さんが他界される直前のことだった
ご自身のお孫さんや縁のある人に残したいという思いから、自身でスキャナーでスキャンして家庭用プリンターで印刷・袋に折ったプリントを送ってこられ、私から製本所へ依頼して完成本を届けた。しかし、袋綴は束が膨らみ本として見づらくなることはいかんともしがたかった
そこで篠田の判断ですべて版を作り直すこととし、新たな版下を印刷・製本に回すこととした
『遊民』の創刊は2010年夏。以来年2回のペースで刊行され、第16号が終刊号で2017年秋のことだった。大牧さんは他の同人と共にすべての号に原稿を掲載していた
各号に掲載した原稿のタイトルは上図の通りで、自身の関わった文学運動に関するものをはじめとして多岐にわたっている
編集にあたっては同人誌『遊民』連載のまま掲載した。毎号に原稿を掲載したときの緊張感が行間にあふれている、と思う
巻末に私の覚書を併載した
大牧さん逝去を伝える新聞記事などは「『徳山村史』編集に従事し」「ダムで水没した徳山村の歴史を残した郷土史家」と紹介していた。もちろん、それは間違いではないけれど、大牧さんには『遊民』連載のように文学者・作家、また文学運動に携わる文学運動家という大きな面があった。さらには『徳山村史』刊行後に徳山の志ある村民や村内外の研究者とともに「徳山村の歴史を語る会」として村を語り継ぐ活動を続け、この「徳山村の歴史を語る会」を母体にして「徳山村の自然と歴史と文化を語る集い(徳山村ミニ学会)」から「揖斐谷の自然と歴史と文化を語る集い(揖斐谷ミニ学会)」へと発展したシンポジウムの事務局を14年にわたって務め、徳山村を始めとして揖斐谷の自然と歴史と文化に関わる学際的な研究を主唱し、精力的に支えてきたことを忘れることはできない。篠田の覚書ではこれまで余り触れられてこなかったこれらの業績を振り返り、大牧さんが徳山村の歴史を語る会の会誌『ゆるえ』に発表した論文、著作を紹介した。なお用意していた挿図・写真は紙数節約のためすべて割愛させていただいたことをお断りしなければならない
大牧さんは離村前後の慌ただしい村にあって、村の人とともに、徳山村・揖斐谷に立脚した研究を最後まで続けた。このことは誰かが書いておかなければ忘れ去られる恐れがあると、篠田が危機感を持って覚書を書かせていただいた所以である
なお篠田が作成した版下による印刷は ブックショップ・マイタウン 代表・舟橋武志さんにお願いした
舟橋さんには私の20代の頃からたくさんの本を出していただき、またこの本は舟橋さんの体調が思わしくない中を大変な無理をお願いすることになった
『遊民』だけはなんとしても仕上げる、という舟橋さんの執念で印刷していただけたとうかがっている。なお奥付に「印刷 ブックショップ・マイタウン」と入れさせていただくことを相談したのはこの企画が持ち上がったとき。自費出版の持ち込み版下は見劣りがすることもあるので名前を出すことは遠慮している、ということだった。しかし、自分で版下を制作しておいてこんなことを言うのも変だが、なかなかどうして立派に印刷されていてびっくり。誰もが納得の仕上がり。いい仕事をしていただけたと心から感謝している
(篠田通弘)
■■ 大牧 冨士夫 『遊民』 ■■
頒価 1,500円+税 150円(税・送料込みで 1,650円 残部僅少)
問い合わせ先 風媒社 (取扱がマイタウンから変更となりました)
E-mail info@fubaisha.com
http://www.fubaisha.com/
〒460-0011 名古屋市中区大須1丁目16-29
TEL:052-218-7808 FAX:058-218-7709
|